監督 杉井ギザブロー
公開・1985宮沢賢治の未完作品だそうで…。原本は未読なので、人が猫になっているとか細かいところは全然気になりませんでした。原案がますむらひろしなので、猫であって当然というか。独特な物語の世界と可愛らしい猫が違和感なく合っていて、私は好きです。こういう不思議で幻想的な、よくわからない不気味な感じの世界には動物が二足歩行でしゃっべてるほうが落ちつきます。話の構成が一段落ごとに区切られて進んでいく感じです。またそれが淡々と静かに流れて、後にいくにつれて妙なドキドキ感が募ります。遠くにあった足音がどんどん近付いてくる感じでしょうか。とにかくこの世界は沈黙が多いです。しかし音がよく聞こえます。生活音です。汽車の音とかドア開ける音とか、ちょっとした事なんだけれども、普段意識してないような音が気になってしまうような…。第六感を働かせて見るみたいなところがあります。基本、精神世界なので意味がわからないのは当たり前で、感性の問題。意味がわからないものはかなり奥が深いです。そこでなにがメッセージなのかな…ここのあの表現って…と、考えることが大切なのだと思いますが、これは難しい。爆発しそうなので単純に色が綺麗だとかそういう見方をしました…。背景、小物が絵本のようで可愛く色もやさしくてあたたかでした。俯瞰でみる赤い屋根の景色も手書スケッチみたいで。切り取りたい風景がいくつかありました。星祭りの夜、黒い木立と薄ら明るい道。光のコントラストが本当に綺麗で…幻想的。十字の広場で踊る猫達。石畳の星柄が光ってて吸い込まれそうでした。不思議な木も沢山でてきて、凝視してしまいます。ジョバンニが夜の丘を駆けていくシーン、丘の上の夜空が満天の星で…ここが一番の見せ場だと思うのですがバックに流れる音楽も壮大で…。本物の星みたいです…。プラネタリウム行かなくてもこれをみれば大丈夫みたいなところあります。列車から見る景色も暗いんだけどそこに咲く白い花達が映えてて綺麗で…。こんな鉄道あったら一度は乗ってみたいと思いますが、行きつく先が怖くて、またそれも賢治ワールド。以下気になった場面↓
●「活版所」が個人的に一番好きなシーン。何ともいえない重い空気。鉄と紙と木と色んな匂いがたちこめていそう。淡々と文字を拾うジョバンニが地味。なんとも地味なアルバイト…何だかお通夜みたいな雰囲気。壁一面に並んでいる文字が圧巻。全体的に地味だがそこが良い。●ザネリ達のからかいにも心を閉ざしたジョバンニは反抗もせず、全くの無表情。感情がないので、人でなく「猫」を使ったのはある意味正解だと思った。だけどカムパネルラと一緒にいるジョバンニは明るく、よく喋るし、本当に好きなのが伝わってくるので可愛いなぁと思いました。●いきなり星空から列車がやってきて乗ってしまうあたり、夢オチ感はんぱない。そこにカムパネルラがいるのも夢っぽいがこれは現実だった。これが本当の霊体験。●停車駅の待合室、荷物があるのに人が一人もいないという不気味さ。小さな扉を開けると白く長い階段…上がったり下りたり、見覚えのある広場に着いたり…潜在意識の世界は果てしない。夢の世界は不思議。水晶の砂綺麗だった。120万年前のクルミが石になって砂になって消えたのが何だか切ない。●鳥狩りのおじさん、サギが袋に入ってるというが、どうみてもサギの形をしたクッキーに見える。もらったものをちゃんと食べるジョバンニは偉い。本当にお菓子だった。駅を降りて飛んでくるサギを袋に詰めるおじさんが狂気。何故鳥狩りなのか、何か意味があるんだろうが、わからない。雰囲気でよしとしよう。●切符拝見のシーン。ジョバンニが持っていた切符は三次元世界のもので、何だか貴重な凄いものだったらしいのだが、あの紙には何が書いてあったのかわからない…とても気になる。他の客は「幻想第四次元」のちゃんとした切符を持っているので、ここでジョバンニ以外は皆現世の人ではないことがわかる。●急に人が消えていく。ふっと消えるので怖いというより自然すぎて空気みたい。鳥狩りのおじさんが消えたときに言ったジョバンニの台詞「僕、もう少しあの人と話をしておけばよかった。僕はあの人が邪魔のような気がしたんだ。だから辛い。」が、もう会えなくなってしまった人を思う後悔の念が伝わってきた。●初めて猫でなく、人が汽車に乗ってくる。人間にリンゴをもらうジョバンニら。リンゴが増えるのは何故なのだろう。四次元空間のできる業…って思うしかないのかな。●終着駅が近づくにつれて人がいなくなり、最後に残ったジョバンニとカムパネルラ。確実に死者が行くところなのだが、ジョバンニは気付かず、ずっとカムパネルラの傍にいると宣言するのが切ない。カムパネルラは目に涙を。天上にさしかかると「お母さんだ…」とカムパネルラ消える。ジョバンニを置いて。「カムパネルラ!」ちょっと本当に泣けてきた。●目を覚ましたジョバンニ。そうだお母さんが待っている…と、牛乳をもらって家へと急ぐ。するとクラスメイトが慌てた姿でジョバンニの前に…川でカムパネルラが溺れた…探しているが見つからない…。鉄道は夢だったけど夢じゃなかった。本当のことがわかるとこんなにあっけなくて悲しい。●親友が死んだことを知り、しかもそれがザネリを助けての死だったことを知り、ジョバンニはこの命を捧げてもいいから皆の光になると誓う。汽車のなかでサソリの話をしていたが、ここでサソリがジョバンニの今後の生き方を示すものだったみたい。カムパネルラの死を知ると同時に父親が帰ってくる知らせをうける。一人の親友の死がジョバンニを変える。カムパネルラが教えてくれたみたな…。
父親が帰ってこない寂しい生活やそれを嘲笑うクラスメイトらに日々、心が病んで、しかもお母さんも病弱で自分が働かないといけない。他のクラスメイトが楽しんでいるときに活版所。きっと自分も死んでしまいたいなどと思ったから、あの銀河鉄道が現れたのかもしれない…。あんなに孤独な青年の唯一の親友と呼べる人を亡くしてしまうなんて、これって本当に悲しいけれど彼にとって人生の転機で、これからが本当に生きるということなんだと思うと、ジョバンニはもう、カムパネルラとずっと一緒にいるなんて言えないし、カムパネルラがむしろ自分を生かすためにこの命を捧げてくれたんだと思って生きなければならないんだと思う。この清らかすぎる友情はなんなの(涙)こんな壮大な心象スケッチをありがとう。宮沢賢治は偉大です。生と死は永遠のテーマです。
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